影と闇
自分のファンの子のためにも、自分のためにも。


思わせぶりな発言をするのはやめてほしい。


本人は思わせぶりではないと思っているだろうけど、私にとっては好きじゃないかと思わせる言動にしか思えないの。


お願いだからやめて。


なんて、沖田くん本人に言えるわけない。


言ったら、沖田くんファンの女の子たちにどんな目で見られて、どんな言葉を浴びせられるか。


心の中でぶつぶつとあれこれ考えている私を尻目に、沖田くんが紙袋を全部片手に持って私の手を軽く引っ張った。


体が前のめりに倒れるが、地面に体がつかない程度に踏ん張った。


待ってたらダメだったのか、って。


カッコいい王子様が迎えに来てくれることはそんなにないのに、お姫様でも彼女でもファンでもない私が王子様にこんな扱いをされるのは恥ずかしい。


羞恥心を刺激されるほどのことではないけど、頬に熱が帯びてくるくらいの恥ずかしさだ。


うつむいて引っ張られるがままになった私だったが、その時間は長くはなかった。


集合場所がさっきまでいた場所との距離がそんなに長くなかったせいか、あっという間だった。


前を歩いていた沖田くんの背中と足が止まったと同時に、慌てて手を離して距離をとる。
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