影と闇
体中から汗が噴きだしそうだ。


嘘はあまりつけないけど、ここでなんとかしのがないと。


「それは……力を振りしぼって全速力で走ったからだと思うよ。よく覚えてないけど、気づいたらここまで来ちゃったよ」


誰かが会話に入る隙を与えることなく、真っ赤な嘘をついた。


さすがのふたりも嘘だと疑うのではと思っていたが、ふたりは疑うどころか目を見開いてびっくりしている。


「マジ⁉︎ 全速力でダッシュしたの⁉︎ こんなにたくさんの荷物を持って⁉︎」


「すごいよ、茅乃。多くの荷物を持ちながら走るなんて普通じゃないよ」


どうやら信じてくれたみたいだ。


胸を撫でおろして安堵の息を吐いた直後、主任の先生が手をあげて注目を浴びた。


「はい、全員集まったな。それじゃあ、バスまで移動するように」


主任の先生の言葉が聞こえたと同時に、どどっと勢いよくバスに乗り込む生徒たち。


激流に飲み込まれそうになりながら、私もバスに乗り込む。


席は変わらず窓側の一番前。


その隣も蘭子と変わらず。


「頑張ったね〜茅乃、よしよし」


嬉しそうな表情で私の頭をかきまわす蘭子。


それがなんだかおかしくて笑ってしまった。


「や、やめてよ〜、蘭子。お母さんみたいでおかしいって」
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