影と闇
末那にバレないようにそっと立ちあがり、蘭子の隣まで足音を立てずに歩み寄る。


蘭子の持っているスマホの映像は鮮明に映っており、ブレていない。


私と蘭子が見ていることにまったく気づいていないのか、末那はこちらに目を向けることなくガラス割りに夢中になっている。


「この、このぉ‼︎ あの女さえいなければ私はみんなに冷めた目で見られずに済んだのに! この野郎、この野郎、この野郎‼︎」


あの女……?


誰のことだろう。


目をしばたたかせる私には、末那が言った“あの女”が誰なのかと考えることしかできなかった。


しばらく頭の中で考えていると、再びうしろから人の気配を感じた。


しかも、今感じるオーラは普通の人が放つオーラじゃない。


体が小刻みに震え、額からつたう小粒の汗がたくさん流れてくる。


振り返ることができずにカタカタと震わせる私を尻目に、蘭子が嬉しそうにはにかんだ。


「よし、撮影できた。これで芦谷の暴走がいつでも見られるぞ!」


喜んでる場合じゃないよ、蘭子。


私たちのうしろに誰かいるんだよ。


背後に誰かがいると思っていないであろう蘭子にコソッと耳打ちをして、うしろから感じるオーラについて説明した。
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