影と闇
私がきれいだと思ったのは、透明な水槽の中で熱帯魚たちが泳ぐ姿だ。


「この熱帯魚きれいだよね、沖田くん」


同意を求めて沖田くんのほうに顔を向けたが、沖田くんは水槽をじっと見つめていて動かない。


どうしたんだろう。


首をかしげながら心の中でつぶやく。


沖田くんの反応があったのは、私がセリフを発してから十数秒ほどだった。


急に沖田くんが私のほうに顔を向けて、ニコッと微笑んだ。


「たしかに泳いでる熱帯魚はきれいだけど、茅乃のほうがずっときれいだよ」


「えっ……」


私のほうがきれいだなんて、言われたことがない。
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