影と闇
心の中に抱いていた疑問を口にするのに、そんなに時間はかからなかった。


「……ねぇ、沖田くん」


「ん? なに?」


「なんでケガしてまで私を守ったの?」


私の言葉が出たと同時に、沖田くんが腕の血を洗い終え、ハンカチで腕をふきはじめた。


沖田くんはしばらくまばたきをしたあと、ふっと笑って私の頭を撫でた。


「茅乃は俺にとって、大事なお姫様だから」


“大事なお姫様”。


そう言われて、体がくすぐったくなる。


「私はお姫様なんかじゃないよ……」


ボソボソと消え入りそうな声でつぶやいた直後、沖田くんが腕についた水滴をふき終えた。
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