影と闇
急いで入ってきた先生は、開けたドアをそのままにして、小脇に抱えていたものを教壇の上に置いた。


目の前にあるものに夢中になってしまうあまりに周りが見えなくなるので、クラスメイトたちは先生のことを“せっかち先生”と呼んでる。


私は呼ばないけど、蘭子が楽しそうに『せっかち先生ー!』と笑っていたことがある。


慣れたような視線を向けるクラスメイトを尻目に、先生はひと息をついてから沈黙を破った。


「……ふぅ。さて今日の6限だが、修学旅行についての説明をしたいと思う」


途端にまた教室内がザワザワとしはじめた。


なんだ、修学旅行か。


進路と関係あることをするのかと思っていた。


そう思いながらほっと胸を撫でおろす。


隣の席の子も安心した表情を見せる。


「なーんだ、進路のことじゃないんだ。よかった」


「修学旅行のことでよかったね」


隣の席の子と前の席の子が修学旅行についてと聞いてほっとしているのは当然だ。


進路と修学旅行のどちらが好きかと聞かれたら、生徒の大半は後者を選ぶ。
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