影と闇
ほどこしたメイクを崩すわけにはいかない。


心ではそう思っているけど、蘭子たちの前ではおかしそうに笑う。


私の表情がよほどおかしそうだと思ったのか、理子ちゃんもつられて笑った。


「あはは、本当にそうだね。自分で言ったことなのにマジ笑えてきたんだけど。本当、茅乃の言うとおりだね!」


本当におかしそうに笑っている。


目にうっすらと涙が浮かんでいたので、笑いをこらえているのだろう。


でもそれは理子ちゃんだけではなく、蘭子までもが目にうっすらと涙を浮かべて笑っている。


「ちょっ、阪口、そんな声で笑わないでよ……。こっちまでおかしくなっちゃう……」


朝早くにほどこしたらしいメイクが崩れそうになるのもおかまいなしに、目や頬を手の甲でごしごしとこすっている蘭子。


メイク落ちないのかな、蘭子。


一度すっぴんで学校に来たけど、そのときの顔があまりにもメイク後の顔とかけ離れていたからびっくりしたっけ。


本人も素顔を誰にも見せたくなかったのか、一日中嫌な顔していた。


それ以来、蘭子は絶対にすっぴんを誰にも見せなくなったけど、急いでいるときは絶対にバレないように分厚いレンズのメガネと大きめのマスクをつける習慣を身につけたらしい。
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