不完全美学
家に着くとシンと静まり返っていた。
真っ暗だけれど、唯一リビングから光が漏れる。
そこにはお酒の匂いにまみれたママの背中があった。
ママがお酒を飲むのは何かを忘れたい時なんだって、あたしは知っている。
「……葉月、帰ったの」
「うん、……ただいま」
ママはあたしに背中を向けたまま振り向こうとしない。
「……ママ、泣いてるの?」
ママの肩が小刻みに震えていた。
その背中は痛いくらいに切なく見える。
消え入りそうな掠れた声でママは言う。
「何で……なのよ」