不完全美学

家に着くとシンと静まり返っていた。

真っ暗だけれど、唯一リビングから光が漏れる。

そこにはお酒の匂いにまみれたママの背中があった。

ママがお酒を飲むのは何かを忘れたい時なんだって、あたしは知っている。


「……葉月、帰ったの」

「うん、……ただいま」


ママはあたしに背中を向けたまま振り向こうとしない。


「……ママ、泣いてるの?」


ママの肩が小刻みに震えていた。
その背中は痛いくらいに切なく見える。

消え入りそうな掠れた声でママは言う。


「何で……なのよ」
< 105 / 252 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop