不完全美学

あたしが何も言わないで居ると、ママは次第に声を荒げ始めた。


「何なのよ! 私だって幸せになりたいのに! 邪魔しないでよ!」

「ママ……」


逃げ出したいのを必死に堪える。足はガクガク震えるけれど、ここで逃げたら負けだ。

あたしは大丈夫。
だって、凪がそう言った。

ママはついにわぁわぁと声を上げて泣き出した。

テーブルの上に並べられた空のアルミ缶を、一気に払い落とす。


「一人は嫌なのよ……寂しい! 恐い! 私、一人じゃ生きられない!」


大丈夫。

あたしは一歩踏み出し、そのままママの背中を抱きしめた。
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