不完全美学
「なんで?」
凪は画材を準備する手を一旦止めて、まっすぐにあたしを見た。
切れ長の冷たそうな目、やっぱり綺麗。
「描きたいものが見付かった。コンクールに出す絵を描くことにした」
凪はいつも通りの仏頂面だったけど、心なしか嬉しそうに見える。
「だからって、なんで来ちゃいけないのよ」
「イメージを乱されたくないからだ。集中したい」
これはきっと凪が前に進むための大事な一歩なんだ。
あたしに邪魔する権利なんて、ない。
あたしは聞き分けのいい子供みたいに、頷くしかなかった。