不完全美学
あたしは少し呆れたように息をはく。
「だから、凪の絵が好きなだけだよ」
真弓はどこか不満そうだ。キューティクルの整った髪をいじりながら言う。
「私は葉月は北澤君のこと好きだと思うんだけど」
まるで何かの議題について意見を問うような目を向ける真弓。
「これは恋じゃないよ。だって恋っていうのはさ……」
そこまで言うと、あたしは言葉に詰まった。
真弓が不審そうにあたしを見る。
どうしよう。
あたしの頭の引き出しには“恋”についてのサンプルが見当たらなかった。