不完全美学
そこに描かれていたのは、真っ黒い絵だった。
黒以外は一色も使われていない。
その右下には、小さく文字が記されている。
“凪”
「なぎ……」
「誰?」
突然声をかけられて、ビクリと肩が跳ねた。
声の方を振り返ると、栗色の髪の男、北澤凪が居た。
美術部の王子は、あたしを不審そうに睨んでいる。
「あの、あたし、園山葉月」
あたしは精一杯人懐っこい笑顔で、自己紹介をした。
だけど相変わらず北澤君の不審そうな目は緩まなかった。