不完全美学
「それ、触らないで」
そう言われてあたしは、黒い絵からパッと離れた。
北澤君は静かに椅子に座り、転がっていた絵の具を拾い上げて何やら準備を始める。
うーん、やっぱり綺麗な顔。
顔小さいし、冷淡ぽい目元も堪らない。
「ね、北澤君」
あたしは手際良く準備を進めるその手を取った。
迷惑そうな顔。
でも負けない。
跳ね返すくらいに甘い瞳で見上げてやった。
「あたし、北澤君と付き合いたいの」
背の高い北澤君は、あたしを見下ろしていた。