不完全美学

あたしはまた美術室の方に戻り、窓越しに凪と向き合った。

そんなあたしの様子を見て、凪が不思議そうに首を傾げる。


「入れば? 寒いし」

「いいの?」

「は? あぁ、もう絵の出品は済んだんだ」


あたしはホッとして入口にまわり、久しぶりに美術室に入る。


遠慮がちに凪のそばに寄るあたし。

油絵の具の匂いに混じって、ふわりと柑橘系の香りがした。

香水かヘアワックスかは分からないけど。

あたしにとっての凪の匂いは油絵の具だったから、こんな香りも持っていたことに初めて気付いた。
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