不完全美学
あたしはあたしの知っている色々な凪を思い出す。
栗色の髪や冷たい眼。
ひょろりと背の高い仏頂面。
キツイけど嘘のない言葉。
静かな声、節のある指、絵の具と柑橘系の匂い。
あたしの中に凪が溢れ出す。
あたしの中の色んな気持ちが溢れ出す。
真弓がさらに言う。
「北澤君が居なくなったらどう思う?」
あたしはそのことを想像してみた。
だけどあたしの中に溢れた凪は消えなくて、なんだか苦しくなる。
「……いやだ」
絞り出すみたいに、あたしは言った。