不完全美学

「北澤凪、くん」


呼びかけると、北澤は視線だけチラリとこちらに向ける。

だけど何も言わずにまたすっと視線をキャンバスに戻した。


「ちょっと、無視しないでよ」

「……何?」


何、と言われても特に用件はない。

かといって「何でもない」なんて言ったら、また呆れた顔で見られそう。


「その絵。夜を描いてるの?」


やっと出て来た言葉はそれだった。

ひたすら真っ黒なその絵は、その上から何か描くにはもう重ねられすぎてる。

だからきっと、黒い何かなんだと思った。
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