不完全美学
その壁にかけられていたのは、深い青と深い緑がベースの絵だった。
描かれているのは目を伏せた女性。その目から涙が零れていた。
涙は白い絵の具を重ねて表現されていて、全体の暗いトーンに映える。
「凄いねこれ、誰の絵?」
「北澤君だって。美術部の王子様」
「へぇ〜、顔も良い上に絵も上手いんだ」
周りで女の子達が言う。
これがあの時凪が描いていた絵。
描けないと言っていた凪が、描きたいと言ったもの。
あたしは凪の絵を沢山想像したけど、そのどれとも違っている。