不完全美学
キッカケ
鼻につく油絵の具の匂いと、凪が滑らせる筆の音。
この空間がいつの間にかあたしを落ち着かせるものになっている。
だけどそれに反して凪の真剣な横顔は、あたしの心を騒がしくさせるんだ。
「美大に行くなんて……あたし知らなかったよ」
あたしはぽつりと呟いた。
凪はチラリとあたしを見て、すぐにまたキャンバスに視線を戻す。
「ずっと迷ってたんだよ」
「え?」
「美大に行くことを諦めたりもした」
凪は表情も崩さずに、まるで他人事みたいに話す。