不完全美学
怒った。
泣いた。
あたしが記憶を手繰り寄せるより先に、凪は続ける。
「描けないと言った俺に、お前は情けないって怒ったんだよ」
そう言えばそうだ。
あんな凪を黙って見ていられなくて。
あんな凪のままで居て欲しくなくて。
「それに俺の前でボロボロに泣いた。俺はそれでやっとまた絵を描きたいと思えたんだ」
あたしがぐちゃぐちゃに泣いた姿を、凪は綺麗だと言ってくれた。
影とか傷とかあるほうが綺麗なんだって、自分にも言い聞かせるようにして。
あの日髪に触れた凪の指の感触を、あたしはまだ覚えてる。