不完全美学

手を


静かな美術室を朱色の光が染めてゆく。

凪は筆を持っていた手を止めて、ゆっくりと片し始める。


片付け終えた凪は鍵を返しに職員室に寄ると言った。

あたしはそれに着いて行って、夕暮れの廊下を凪と歩く。


凪と並んで歩ける少しの帰り道。

相変わらずあたしの歩幅なんか気にすることのない凪。

あたしは少し速歩きになりながらついて行く。


以前のあたしなら、女の子に歩幅合わせないなんて最悪、とか思ったんだろうな。

まったく、あたしも随分と控えめな女になったものだ。
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