不完全美学

「おい、置いてくぞ?」


動こうとしないあたしに向かって、凪はそう言いながら顔を覗き込む。

あたしはその瞳に捕まってゆっくりと顔をあげた。


「どうした」


何て言って良いのか分からずに、あたしは黙ったまま。

何か喋らなきゃ。
凪が呆れて帰っちゃう。


そんなあたしの不安とは裏腹に、凪は先に帰ったりしなかった。

あたしが歩き出すか、話し出すのを待ってくれている。


「何かあったのか」


アンタのせいよ、なんて今のあたしには言えない。

あたしはスカートの裾をキュッと握った。
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