不完全美学
胸の奥がきゅうっと高く鳴く。
あたしは高鳴りだした心臓をなだめながら、すっと息を吸う。
手の平に無意識に力が入る。
「……いいんだよ! あたしは、そんな凪が好きなんだから!」
想いを伝えるって、こんなにもパワーのいることだったんだ。
想いを口にするって、こんなにも勇気のいることだったんだ。
凪の頬を、なびいた彼の栗色の髪が泳ぐ。
「わかった」
凪は一言そう言うと、ぱっと顔を背けて歩き出した。