不完全美学

ハッとしてあたしは携帯で時間を確認し、美術室を飛び出した。

藍田さんが帰る時間。

駐車場に居た藍田さんは、あたしに気付くと笑顔で手を振った。

どうしてだろう。
笑顔が嘘臭く見えてしまう。

あたしはそれには応えず、腕を掴むと真っ直ぐ目を見て問い掛けた。


「藍田さん、もう加藤さんとキスはしたの?」


藍田さんの表情が、明らかに変わる。
なんだか支離滅裂な言い訳を始め、ついには軽くキレ出した。

あぁ、そっか。
そうなんだ。


「もういい、バイバイ」


あたしは藍田さんの腕を離し、目も合わさずにその場を去る。

その後でA組の友達に電話して聞いたら、どうやら凪の話は本当だったみたい。

あたしとしたことが情けない。

あたしはトボトボと美術室に戻った。
< 28 / 252 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop