不完全美学

あたしが再びマンションに帰ると、男物の靴はもう無くなっていた。

ママはソファーにもたれて週刊誌を見ている。


「ただいま」

「おかえり〜」


週刊誌に視線を落としたまま、気の抜けた返事を返すママ。

あたしは居間を抜けてキッチンに入り、冷蔵庫から麦茶を取り出す。


「今日もあの人来てたんでしょう?」

「あぁ、知ってたの? 来てたわよ」


平然と答えるママ。
いつものことなのに、なぜか凄く苛々する。

あたしは麦茶をコップに注ぎながら言った。
< 40 / 252 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop