不完全美学
あたしが再びマンションに帰ると、男物の靴はもう無くなっていた。
ママはソファーにもたれて週刊誌を見ている。
「ただいま」
「おかえり〜」
週刊誌に視線を落としたまま、気の抜けた返事を返すママ。
あたしは居間を抜けてキッチンに入り、冷蔵庫から麦茶を取り出す。
「今日もあの人来てたんでしょう?」
「あぁ、知ってたの? 来てたわよ」
平然と答えるママ。
いつものことなのに、なぜか凄く苛々する。
あたしは麦茶をコップに注ぎながら言った。