不完全美学

「小さい頃から、俺が好き勝手に描いた絵を周りは褒めた。神童なんて呼ばれてさ」

「天才ってこと?」


あたしがそう口を挟むと、凪は少し自嘲気味に笑った。


「そう言われて、気分は悪くなかった。描けば褒められると思えば余計に描くのが楽しかった」


そこであたしは微かな違和感を感じた。

思い浮かぶのは、凪があの黒い絵を描いていた時の姿。


「あの黒い絵を描いてた時は楽しそうじゃなかったね」


凪は水色の絵を静かに床に置き、ポトリと落とすみたいに呟いた。


「……描けないんだ」
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