不完全美学
凪は美術室の鍵を返してから帰ると言ったので、あたしは先に帰ることにした。
自分の静かな靴の音を聞きながら、すっかり日が落ちた街を歩く。
今日は凪の心の深い部分に触れてしまったと思う。
あたしは凪の、そんな部分に触れられるような立場ではなかったのかもしれない。
だけど凪は許してくれたんだ。
あたしが触れること。
ふと、考える。
あたしは今まで、何かにあんなにのめり込んだことがあったろうか?
なんだかモヤモヤとして、吹き飛ばすみたいに空き缶を蹴った。