不完全美学

この人は優しい。
顔もスタイルも申し分ない。

こんな人がナンパで捕まるなんて奇跡だ。

それなのに、あたしの気持ちは弾まなかった。


あたし達はその後、話題の映画を観て、食事して別れた。

彼は車で送ってくれて、車を降りようとしたあたしの腕を引き寄せる。

痩せているのにしっかりと厚みのある胸に収まるあたし。


「おやすみ、葉月」

「うん。おやすみ」


あたしはフラフラとマンションの廊下を渡り、力の入らない手で扉を開けた。

また、男物の靴。

あたしはそのまま静かに扉を閉めた。
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