不完全美学
濃いめの鉛筆を画用紙に滑らせる凪。あたしはその隣に椅子を持ってきて座る。
「ここで見てると気が散る?」
「別に」
凪は画用紙を真っ直ぐ見つめたまま独り言みたいに答える。
「集中力あるんだね」
「集中したい訳じゃないしな」
白い画用紙には、花瓶の形がかげろうみたいに浮き出し始めている。
「でも凄い集中してるように見えるよ」
凪は画用紙に穴が空くんじゃないかと思うほど、じっと視線を外さない。
「俺は絵を描いている時が一番落ち着くってだけ」
凪の鉛筆はみるみるうちに花瓶に立体感を与えてゆく。