不完全美学

男はママの傍らを摺り抜けて部屋を出て行った。


「待ってよ……!」


ママは引き止めようとしたけれど、男は何も聞こえないみたいに出て行く。
玄関が荒々しく閉じられる。

あたしを振り向いたママは、涙を浮かべた瞳であたしを睨んでいた。


「あたし悪くない……。アイツがあたしにっ……」


言い終わらない内に、あたしの頬に痛みが走った。

熱を持った頬が痺れる。


「なんで、あたしをぶつの」


ママは悲しみと怒りを同時に含んだ目をあたしにぶつける。


「どうして私の邪魔をするの!?」
< 92 / 252 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop