不完全美学
他人の前でマジに泣くなんて久しぶり。
あぁ、格好悪い。
嘘泣きならもっと綺麗に泣けるのに。
そんなあたしを前に凪はハァーっと息を吐く。
「ヤキモチか」
あたしはカッとなって顔を上げ、凪をきつく睨んだ。
「うるさい! 違うわよ!」
「そうだろ」
「違う! ムカつく。もう凪なんて嫌い!」
勢いに任せて放たれた言葉が、油絵の具の匂いに溶ける。
絵の具の匂いの染み込んだ空気は、密度が高くて重く感じる。
「まぁ別に、お前に嫌われても特に困らないけど」
しれっとした顔で凪はあっさりと言った。