神々の聖戦


ーパンッ

「ぐぁあああ!!」

奴の作った異空間は消え去り、元の教室が現れる。

案外呆気なくて物足りない。

さっとポニーテールを解くと一息ついた。

『つまらないな…』

ZENOが砂となって消えていくのを見ているとルイスが興奮したように話しかけてきた。

「やっぱミラってすげぇな!予知能力とか最強じゃん。俺も一回は予知とかしてみてぇ。」

『それ程いいものじゃない…ルイスの能力のほうが私は羨ましい。』

見たくないものまで見えてしまうんだ。

ふとした時にそれは見える。

その内容は殆ど悲しいこと。

それに対してルイスは太陽神の力を持っている。

性格も明るく、まさに太陽のようで黒アッシュの入ったオレンジ色の髪もよく似合っていた。

「まぁ頭がそもそもいいし…分けて欲しいくらいだ。」

ルイスが頭を抱えるとユンが意地悪い笑顔を浮かべている。

「ルイスは単純で馬鹿だからねー」

「ユン、お前…!」

てっきり怒るのかと思っていると、ルイスはすかさずユンの手を取った。

「え"…」

「勉強教えてくれさい!!」

「いや、なんか言葉可笑しいから。」

「頼む!俺、今度のテスト実技は大丈夫だけど筆記のほうは赤点だらけなんだよ!」

ルイスの戦闘力はかなり高いが…頭の方は残念なわけだ。

ユンはイージスクラス、普通科を混ぜてもかなり上位に位置している。

この学園の普通科は世界トップクラスの頭脳が集まっているのに…

流石、理事長の息子と言うべきか。

当然ながらオスカークラスでは頭脳成績一位だ。

私はいつも二位であと少しの所で届かない。

悔しいが、幼い頃からずっと彼には勝てないでいた。

「いいよ、でも俺スパルタだから覚悟してね?」

「お、おう…」

とびっきりの黒い笑顔に圧倒されるルイス。

『…ユンは本当にスパルタだからね。』

「な、ミラ、そんな目で見るなよ…」

お願いしたことを後悔するように引き攣った笑顔を見せる。

「じゃあ俺はミラから体術を習おうかな。」

後ろからルーカスが私の手を取り引き寄せる。

「離れろ、ミラが汚れる。」

ユンは不服そうにルーカスに睨みを効かせた。

「怖いな…でも実技について、
俺は銃でクラストップ、
魔術と体術がユンで剣術はルイス、
弓術と神の能力ではミラがトップだ。
ユンはルイスのテストを見てるんだったら、体術はクラス二位のミラに教えて貰うのが適切だと思うが…どうだ?」

「ふざけるな、それなら俺が教える。」

珍しくユンが低い声を出した。

ルーカス

彼は色欲の神の力を授かり大の女好きで有名だ。

実際彼に泣かされた女子生徒は多いが、不思議と彼を恨む者もいない。

銀髪に日に焼けた肌、出来上がった体。

彼が本当に同級生なのか疑わしいほど色気が漂っている。

先程私に体術を教えて欲しいと言っていたが、それは名案なのかもしれない。

『いいわよ』

「はっ!?何言ってるんだよミラ!」

「へぇ…」

『その代わり、私に銃を教えてくれない?』

「もちろん、君の為ならなんでも教えるよ。」

よし、決まりだ。

「ちょっ、待って…」

「お前らが教室にいないから焦っていたんだが、元気そうだな?」

走ってきたのか服を乱したホーク先生が頭を抱えて溜息を吐いていた。

「で、見たところ…教室に傷はない、幻術を使うZENOか…侮ったな。」

流石先生、話が早い。

「お前らはまだ狩人見習いだ。あまり無茶をするなよ。ユン・クレースとミラ・ゼンドにはこのことについて詳しく聞きたいから昼休みに理事長室へ。」

「げっ…父さんに会うの…?」

「仕方ないだろう、成績上位二人が学級委員なるのが決まりだ。」

『ユンのお父さん…久しぶりに会うな。』

何度か話しているがとても気さくで優しい人だ。

そして強い

幼い頃、彼の魔法を目の前で見たことがあったが、あれ程までに芯のある魔法は初めて見た。

確かあの時、ユンと出会ったんだったな。

真っ赤な月を背景に彼は私の手を取ってくれた。

あの冷えた夜のことを思い出すと胸が凍りそうになると同時に、温かい気持ちが溢れる。

もし彼が手を取ってくれなければ、
今、私は此処にいなかったかもしれない。

『ユン…』

「え…?」

『ううん、なんでもない。』

ありがとうなんて、突然言われても彼は困るだろうから今は言わないでおく。

またいつか言う機会があれば、ちゃんと礼を言おう。

ZENOが砂となって散っていく姿を、私は静かに見つめていた。
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