神々の聖戦

ーガンッ

誰かが部屋の入口にある棚を蹴り上げる音が響いた。

「なにをしている」

声が地鳴りのように低く響き頭を刺激する。

「……ユン・クレース」

ユン…?

何故此処に…

「アニーが俺を呼んでくれた。シーナ、お前はあんなに心配してくれた親友を裏切ったんだ。そして今度は、神々も裏切った。」

シーナは悪びれた様子も見せず淡々と話を聞く。

「…それがどうしたの」

「は…?」

「あんたは、そんな裏切りより、ミラのことの方が大切な癖に。」

楽しそうに笑う彼女はもう誰だかわからなかった。

酷い頭痛がする。

「そうだよ」

『…』

「裏切りなんてどうだっていい、狩人とかZENOとか…本当はどうでもいい。」

ユンは拳銃をシーナに向けた。

「俺が武器を取るのは、ミラを守る為…
俺はアニーみたいに優しくないから、お前のこと撃っちゃうかもね。」

凍ったような目付きでシーナを睨んでいる。

ねぇ、ユンは…私の為にオスカークラスに入ったの?

何故、そこまで出来るの…

「はっ…馬鹿みたい。」

シーナが私の首元にナイフを当て、ユンに銃を向ける。

「ミラの命が欲しければ、抵抗しないで。」

『っ!!そんなこと、そんなこと許さないから!!!』

ユンは笑った

この状況で笑うなんて正気じゃない。

「なんで…逃げないのよ。」

「ミラは…ずっと昔から俺の特別で、大切なモノだから。」

ユンは手から銃をするりと落とした。

馬鹿じゃない…

『ユン…私が大切なら…今すぐ助けなさいよ!!!』

「了解」

はっとして目を見開いた。

ユンは魔法で影を操ってシーナの足首を掴んで地面に叩きつける。

そしてシーナの上に跨りナイフを目前で止めた。

「ミラの拘束を解け。」

「っ…」

地面に崩れ落ち、壁にもたれかかる。

私の目には、今まで見たこともないほど鋭い目をしたユンが映っていた。

「もうすぐアニーが先生達を呼んで来て、お前は上級狩人に拘束される筈だよ。…逃げても無駄だからね。」

呆然とするシーナを置いて、ユンは私の前にかがみ込んだ。

ーパシンッ

『っ…』

痛い…

ユンの顔を見ることが出来ない。

「……どうして、
無茶ばっかりするんだよ。」

辛そうな声に、思わず顔を上げた。

歪んだ表情、今にも泣きだしそうで、こちらの方が泣きたくなる。

『ふっ…うぅ』

ぎゅっと彼に抱き寄せられて胸の中に収まる。

あれ…?

ユンの背中ってこんなに広かったっけ。

こんなに、胸板は硬かったっけ。

こんなに……大きかった…?

言いようのない安心感に涙がとめどなく溢れる。

『ごめっ…なさい』

私は赤ん坊のように泣いた。

それが安心感からなのは間違いないが、他になにか複雑な思いがある。

大切なものを作らないと決めていたのに、いつの間にかユンは私の中でとても大きな存在になっていたのかもしれないと思うと、とても悔しく感じた。

『あんたのこと、少しは大切だって思うよ。』

「え……」

驚きからか固まっている彼が面白くて思わず笑った。

『冗談よ』

「えっ…えっ?」

混乱したように私の目を見つめる彼の顔はとても赤い。

でも、ユン

私はやっぱり誰かを大切にしようとは思わない。

だから貴方の気持ちには答えられないんだ。

ユンの胸に顔を埋めて、私は一人、ごめんと呟いた。
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