神々の聖戦
「すまない、遅くなってしまったね。
今すぐお茶を入れるよ。」
ワイアットさんが上から私達を覗いて手招きをした。
ゆっくりと聖堂の階段を上がって最上階の部屋に入ると、紅茶のいい香りが鼻から抜けた。
「休みの日にすまない。
話さなくてはいけないことがあるんだ。」
「…話さなくてはいけないことって何?」
「あぁ…」
一瞬の戸惑いを感じる。
ユンも何処か緊迫した様子で話を聞いていた。
「ふたりに、狩人協会からの任務があるんだ。」
『狩人協会から直々に…?』
「そうだ…協会はその任務を全うすればゴールドの称号を与えると仰っている。」
「ゴールド!?」
魔導師にもあるが、当然狩人にも階級があり、それぞれの組織がある。
狩人の階級は五つ。
一つ目は、
BRonzE HunTer
=ブロンズ=
狩人見習い含め、討伐経験がない者。
高校一年生段階。
SilveR HunTer
=シルバー=
一年生最後にある本場の実戦テストで合格した者が二年生に上がれると同時にシルバーの称号を得る。
GolD HunTer
=ゴールド=
協会が指令するテストで見事合格できた者が獲得できる称号。プラチナ直属の部下となり命に従う。よっぽどの実力者じゃない限り簡単には称号を得られない。
PLaTinuM HunTer
=プラチナ=
優秀な狩人が協会からその栄誉を認められ称号を授かる。現在プラチナは八人しかいない。それぞれが役割を担っており、四つの部隊長と三人の単独任務遂行係、マスター補佐官がいる。
少し話に出てきたが、ホーク先生はプラチナの一員だ。
MasteR
=マスター=
狩人協会長で全ての権限を持つ狩人の総帥。狩人だけでなく魔法協会、国家が承認してやっとマスターになれる。
まだブロンズの私達がゴールドになれるなんて夢のまた夢の話だ。
「前回、君達の任務遂行を協会に報告したところ、一日で解決した優秀さに是非ともその実力の程を見せて欲しいと言われてね。結果次第ではゴールドの称号を与えてくれると…とてもいい話だと思うのだが……君達の意見を聞きたい。」
『…その任務は、ゴールドの試験に匹敵するってことですよね。』
下手をすれば命を落としてしまうかもしれない。
「ふたりはまだ若い、焦らなくても…」
『やります』
「ミラっ!どれだけ危険なことがわかってるの?」
不合格ということは、何らかの理由でリタイアしたりする可能性があるということ。
危険は重々承知だ。
『私は一刻も早く、この戦いを終結させたいの。その為のチャンスなら、無駄になんかしたくない。』
「……わかった、俺も任務を受けるよ。」
「ユン、ミラ…後戻りはできないぞ?」
ワイアットさんの強い瞳に見つめられると息が詰まりそうになる。
誤魔化しが効かないと、直感でわかってしまう。
魔法協会長ワイアット、魔導師の総帥。
彼の限界を、見たことのある者はまだいないとされている。
その一人息子のユンも次期魔法協会長とも言える存在だ。
それなのに彼は、私の隣に並んでいる。
私の為に、狩人でいてくれる。
半端な覚悟じゃこの先やっていけない。
「『はい』」
「それじゃあテスト終了後、協会に向かってくれ。…ユン、ミラをしっかり守るんだぞ。」
「言われなくても…」
ワイアットさんはいつもの笑顔でユンの頭をクシャッと撫でた。
「なんだな、巣立ちする雛を見てる気分だよ。」
「…まだ雛鳥なんだ」
「親ってもんは、いつまでも子供は子供であってほしいからね……一つだけ、頼みを聞いてほしい。」
私の頭にも手を置いて優しく撫でてくれる。
「任務が終われば、一緒にご飯を食べよう…家族みんなで。」
その目はとても優しくて、どうしようもなく泣きたくなる。
無事に任務を終えて、帰ってこなければならない。
私は…ワイアットさんの家族だと思ってもいいのか。
否、やはりだめだ。
あの恐怖を忘れるな。
『“ユンの家族”と、またご飯を食べれるなら嬉しいです。』
「……そうだね。」
ワイアットさんは少し悲しそうに頷いた。
結局自分が一番可愛いんだ。
怖がって何も進歩しないじゃない…
自分から線を引いたのに、何故か無性に寂しく感じる。
それに気付いているのか、ユンは透き通った目で私を見ていた。