神々の聖戦
ードサッ
「いっ」
『ごめんなさいっ』
ユンの上に落ちた私は勢いよく飛び退いた。
上を見ると彼女の転送陣がゆっくりと消滅していく。
「ミラが軽くてよかったよ」
ユンは鳩尾を抑えながら立ち上がる。
どうやら肘がヒットしてしまったらしい…
エリザベスさん…意外と雑だな。
そんなことを考えながら周りを見渡した。
『この森…幼い頃にユンと来たよね。』
「うん…父さんに叱られたよね。」
その頃には既に少女はこの森に…
「行こう!ぐずぐずしてらんないよ」
ユンは似顔絵の裏に書かれた地図を読み指を指した。
「こっち」
木に飛び乗って枝から枝へ移る。
『この森…こんなに広いのね』
進んでもなかなか館は見えてこない。
「…見えた!」
『え?』
「あそこだよ!」
ユンが指している場所には何も見えない。
これは…見つからない訳だ。
ユンにはあらゆる魔法も能力も通じない、無効化を持っている。
だから館は見える。
恐らく、館は何らかの理由で見えなくなっているんだ。
ユンは手を握って私を引き寄せた。
「見えた?」
得意気に笑って私を見下ろしている。
少し腹が立つわ…
「いいこと考えた!」
『なに?』
「イヤリングに無効化の能力を与えるんだ。これでミラも他の侵害を受けない。」
それはとてもありがたい話だ。
でもそれはユンに…
『負担にならない?』
「全然!」
ならいいんだけど…
ユンは私のイヤリングに触れて目を閉じた。
ふわりと風が巻き起こると何か不思議な力が宿った気がする。
『こんなこと…何処で学んだの?』
「古い本で読んだんだよ。」
ユンは私と同じ嘘のつき方をして館を見た。
私達、嘘が下手ね。
枝を蹴って館の前へ着地した。
ここが…少女の囚われている館…
気味が悪いわ。
「あれ見て!」
ユンは庭の方を指した。
『え…』
そこには似顔絵の少女が花を摘んでいた。
ふたつに結んだ赤茶の髪がとても可愛らしい。
でも…七年前とまるで同じ容姿だ。
『リオンちゃん!』
「…ぇ」
似顔絵の下に書いてあった名前を呼んだ。
よかった…あっているみたいだ。
「お姉ちゃんどこからきたの?一緒に遊ぼうよ!」
リオンちゃんは私の袖を掴んで館の方へと誘った。
ユンも訝しげな表情を浮かべている。
『……わかったわ。
遊び終わったらお姉ちゃんとこの森を出よう。』
「やった!!!」
今はこうすることしか出来なさそうだ。
館は想像していたのよりもとても綺麗で色とりどりの花が咲いている。
窓もピカピカで玄関も落ち葉ひとつない。
しかも、今は日の出前のはずなのに太陽はギラギラとしている。
『…まさかね』
一刻も早くこの森の謎を突き止めなければいけない。
私達は館の扉を潜った。