神々の聖戦

『シャルル、ヘブン』

私は立ち上がってふたりを呼び出す。

「ミラが呼んでくれるなんて初めてだね!」

「……その人達、誰。」

人間嫌いのふたりには悪いが手伝って貰おう。

「っ…!!」

ブラットレイ夫婦はかたかたと歯を鳴らしている。

ユンは変わらない表情でふたりを見ていた。

『この人は私の幼馴染のユン・クレース。
この夫婦はブラットレイ、娘のリオン・ブラットレイの魂についてシャルルに調べてほしいことがあるわ。』

「…人間の手助けか、ミラの頼みなら仕方ないね。」

シャルルは冥界の番人、通行人の名は知っている筈だ。

「リオン・ブラットレイ…彼女の魂は冥界にはないよ。そこの人間、案内して。」

シャルルは冷たい視線を夫婦に向ける。

「はっ、はいっ」

ふたりはシャルルに追いやられて部屋を出ていった。

「…人間なんて、自分勝手だ。」

そういうヘブンの頭を撫でる。

『神様も自分勝手でしょ?』

「…ミラ様は、大好きだ。
ミラも!
あんな人間に構わなくてもいいのに…」

「ヘブンはミラのことが大切なんだね。」

「なにがわかるんだ…人間なんかに」

「わかるよ、“人間”だから」

ユンは伸びをして立ち上がり部屋を出ていった。

ヘブンは不服そうに腕を組んでいる。

『…ユンはね、私の命の恩人なんだ。
あの人は…他の人とは違うよ。』

「そんなの…わかってる」

ふと頭の中に映像が流れる。

嫌な予感がした。

勢いよくヘブンを連れて部屋を出て、映像となって流れた部屋へ向かう。

「きゃああああ!!!!!」

頭を劈くような悲鳴が館に響いた。

ウィーナさんの悲鳴だ。

大きくドアが解放されている部屋に駆け込むと、リオンは包丁をウィーナさんの首元にあてがっていた。

大人ひとりを抑え込むような力…

到底幼い少女とは思えない。

「ミラ!あの子、私を見た瞬間様子がおかしくなって…」

警戒したか…

私は銃を取り出して彼女に向けた。

『あなた、誰。』

「あぁあ、せっかく家族ごっこしてあげてたのに…馬鹿な奴ら。」

声が一気に低くなった。

この声は…聞き覚えがある。

「ミラ、どうしたの…?」

ユンは私の尋常じゃない様子を見て代わりに銃を奴へ向けた。

「リオンの魂は…一部だけ生きてるよ。ヘブンならその魂を一時的に戻せる。」

『っ…ヘブン!』

「“来て”」

ヘブンはリオンの心臓部に手を伸ばした。

すると、不思議なことにリオンは包丁を床に落として彼女を離した。

「うぅあぁ!!や、めろ」

もがいている彼女を見て夫婦は悲痛そうに顔を歪めた。

「やめて!」

「もういいだろう!」

『待って!!』

手を伸ばして制すると、リオンはもがくのをやめて涙を流した。

“ぱぱ、まま…”

それは彼女自身だった。

魂が彼等に呼びかけている。

“私、そろそろ楽になりたいな。”

「っ…」

“ありがとう…でも、もうこれ以上忘れたくないよ。ぱぱとままのこと、だいすきだから”

リオンは私に笑いかけた。

それはとても清々しくて、とても幼い少女とは思えない。

“お姉ちゃん…髪の毛一本も残さずに、私を消してよ。”

「リオンが逝くなら、私達も連れて行って…」

三人の表情はもう何も後悔なんかしていなかった。

でも…殺すなんて…

「ミラ!時間が無い。」

ヘブンは焦ったように言い放つ。

狩人協会…酷いことを考えるな…

少女を救え



彼女の魂を救うこと

死を持って、葬ること…

ゴールドになるには

その“覚悟”が必要なんだ。

私は時の女神の武器、神器の弓を出現させた。

神器は狩人の魂…

そして私の弓は百発百中で全てを消滅させる。

その規模は自由自在だ、やろうと思えば町ひとつ潰すことは容易い。

『この、くそやろう…』

少女の中に入っている奴に呟いた。

そして矢を放つ。

“ありがとう、お姉ちゃん”

壁は破壊されて三人は消えた。

少女は…犠牲者だ。

人間の弱みにつけこんでこの一家を闇へと引きずり込んだ。

『シャルル…三人が無事冥界に行けるように連れて行ってあげて。』

「…わかった」

黒い翼で大空を飛ぶシャルルを見つめた。
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