神々の聖戦
八年前

とある小さな町に“捨てられていた”私を聖堂に住まうゼンドさんに拾われ、かれこれ八歳になった頃だった。

いつも通り、町の初等学校に通い帰宅し、聖堂から離れた川の辺で鍛錬をしていたある晴れの日の夕刻。

私はゼンドさんを待っていた。

ゼンドさんは早くに亡くなった魔導師の奥さんの代わりに聖堂も守っていて、ひと仕事終えると私の鍛錬に付き合ってくれた。

狩人でマスター最有力候補とまで謳われた彼だったが、若くして前線を外れ田舎暮らしを始めた。

『ゼンドさんまだかしら…遅いわね。』

噎せ返るような夏の日のこと、汗が顎を伝ってまるい石に落ちる。

ゼンドさんは時間や約束事は必ず守る真人間だ。

ましてやこんな暑い日に美少女を山奥に置いてけぼりなんてありえない。

あの頃はそんなふざけたことを考えられた。

今はもう無邪気な私はいない。

山の上の水は綺麗だ。

川に足を入れるとなぜか妙な心地になった。

まるでなにかを急かされているように、それは足に纏わる。

『…なに』

ーパキッ

数百メートル先、なにかが私を見ている。

鳥は怯えたように空に羽ばたき、心地のいい風は止まった。

川の流れは次第に激しくなり足を掴まれたように引きずり込まれた。

『くはっ…!!!』

ここの川はこんなに深かっただろうか。

天高く手を伸ばせば水がそれを制する。

後から気付いたのは、水の中で何故か息ができること。

そして私を“守ってくれていた”こと…

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