神々の聖戦
いつもより少し五月蝿く感じる。
ゆっくりと目を開けるとそこは見慣れた教室だった。
しかし、その空気は重く血の匂いが漂っている。
『なにがあったの…』
生徒達が一箇所に騒がしく集まっている中、遠巻きに一人、シーナがカタカタと肩を震わせていた。
「アニーが、召喚に失敗して…医の女神の力を持った先生が狩りに出向いてしまっているから……どうしたらいいの、アニーの血が…止まらないよぉ…。」
ホーク先生も止血を試みようとしているみたいだが血が止まらないらしく大量の汗をかいている。
『貴女…医とまではいかないけど…治療の力を持っているんじゃないの?』
「わ、私…まだ自分の力を制御できなくて…。」
『今じゃなきゃ…いつやるの。』
「で、でも」
ーハァ
深くため息をついた。
『そんなんじゃ、いつまで経っても制御なんか出来ないわよ。』
きつい事を言っているのはわかる。
けど…血を見て震えてる程度じゃこの先やっていけない。
氷を貰いに行こうと教室を出ようとすると、偶然にも扉が開いた。
『っ…ユン』
さらさらのプラチナブロンドの髪にアメジストのような綺麗な目、流している前髪から密かに覗く左目には紋章が刻まれている。
中性的な見た目だがその見た目からは想像のつかない力を秘めている彼の名は…
ユン・クレース
学年では私と一、二を争う戦闘力の持ち主だ。
狩人の力を授かっていながら魔導師の血も受け継ぐ前代未聞のオスカークラス生。
しかも、親はこの学園の理事長で大聖堂を守る魔導師の頂点に至る存在。
彼は狩人か魔導師か…選べた筈なのに何故“こちら”に来たのだろう。
「ミラ!ちょっと親に呼ばれて授業遅れたんだけど…これどうなってるの?」
『アニーが召喚術で失敗したらしい。』
「ふぅん…」
ユンはアニーの所へ行き怪我をしている右腕に手を翳した。
「“治れ”」
ふわっと風がユンの髪を攫うと、アニーの怪我は見る見る治っていく。
「お前また魔法の腕を上げたな。」
「いえ…そんなことはないですよ。」
ホーク先生が礼を言うと気を失っているアニーを保健室に連れていった。
「授業は終わったみたいだねー」
ユンはさっきのことがなかったかのように欠伸をしている。
私は帰ろうと彼に背を向けると腕を掴まれた。
「どこにいくの?」
『…寮に帰る』
「暇なら俺と付き合ってよ」
『……』
答えを聞く前に彼は私の手を引いて歩き進める。
いつもこんな調子だ。
ふと大きな窓に目をやると自由の翼を持った鳥が空に羽ばたいている。
それが異常に眩しく見えて目を背けた。