【完】ちょいワル先生と優等生
「家に来る意味、わかってるよね?」
倫哉さんの家と思われるドアの前で、そう私に聞いてくる。
「優等生のゆずちゃんはわからない?」
「わ、かります…」
いくら私でもそれくらいはわかってる。
やっと恋人って関係になれたんだ。少女漫画とか…読みまくったよ。
すごくすごく嬉しくて。
こんなこと…倫哉さんがしてくれたら、とかこんなこと言ってくれたら、とか…そんなのばっかり考えてた。
「じゃあ…どうぞ」
「お邪魔します…」
一歩、その中へ足を踏み入れると私のよく知る匂いが鼻をくすぐる。
倫哉さんの匂いだ。
本当にここで生活してるんだ…
そう思うと少し緊張してきてキョロキョロしてしまう。
「ここ座って」
言われるがままに指さされたところへ座る。
倫哉さんは私用に炭酸飲料と、自分用にビールを持ってテーブルに置いた。
「そんなに警戒しないの」
「…え」
警戒しているわけじゃないんだけど…ただ緊張して、落ち着かないだけ。
「大丈夫、何もしないよ。
さっきはああ言ったけど…」
未成年に手出したら捕まっちゃうよ、なんて笑って言う。
…私も同じ気持ちだったら問題ない、のに…
やっぱり私がガキだから…早く大人になりたい。
「俺は…このまま時が止まればいいと思ってるのにね」
「どうして…ですか?」
「だってすぐにゆずちゃん大学生になっちゃうじゃない。
今までみたいに会えない…俺の知らない、手の届かないところへ行っちゃうみたいで不安になる」
「そんな…」
私が大人になることで倫哉さんを不安にさせていたなんて…思ってもみなかった。
考えてみればそうだ。
保健室に行けば必ず倫哉さんに会えた。
でもこれからはそんなことありえないんだ…
「だから…3つ目のお願い」
少しだけ悲しく、寂しく思った私に優しく呟く。