八百比丘尼と新選組-800歳の少女-
「すまん…すまんな……」




ポタ、ポタ、と綺麗なしずくがゆっくりと、布団に落ちていく。



「……とう、さん?」




なんで泣いてるの?




その言葉すらも出ない。




だって、私の前では笑ってばかりだった。




泣き顔なんて、もってのほかだ。




どうすればいいのか内心慌てるけど、ここは何も言わずに、父さんの背中をさすった。




昔、父さんによくしてもらった。




すごく安心できて、落ち着く。




今度は私がしてあげる番だと、思った。




父さんはずっと、ずっと、誰に向けているのか分からないけれど、すまんなと繰り返していた。




それから半月後、父さんは死んだ。




悲しいはずなのに、涙が出なかった。




泣けなかった自分が悔しかった。
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