私たちがバンドを続けられる理由

そう。


私たちのこの意見交換会（私たちはこう呼んでいる）は、ことごとく2人の意見が合致しないのだ。

よく、これでバンドをやっていけているなと思う。



私たちは4人組のバンドを組んでおり、その中で彼がギター、私がボーカルをしている。

曲を作るのは基本的に彼の担当で、私は歌詞を書く担当だ。


しかし、彼は私に意見を求めてくることが多く、実質共作しているような感じだった。

実は、バンドの中で彼に一番に意見を求められるこの立場が、彼に一番信頼されているような気がして、すごく気に入っている。



私はおもむろにそばにあったキーボードに手を伸ばす。

待機状態に入っていたキーボードは鍵盤を抑えるなりすぐに元に戻った。



曲によっては私がキーボードボーカルをすることもある。

幼稚園の頃から中学生まで一応ピアノを習っていたし、そこそこ真面目に練習していたりもしたから、それなりには弾ける。


鍵盤の上で適当に指を滑らせる。弾く曲を決めて弾いているのではなく、手が勝手に動いてしまっているあたり、鍵盤の上を指が滑っていると言ったほうが実際の感覚に近いかもしれない。



そのまましばらくキーボードを弄んでいたら、たまたま弾いた3音の並びで昨日の記憶がぶわっと一気に溢れ出た。




これ！絶対彼に聴かせたいって思ったやつだ！



もう一回ゆっくり弾いて思い出してみる。

彼は両耳にヘッドホンをしてパソコンをいじっていた。彼は隙あらば曲の編集を始める。


でも、私も隙あらばキーボードを弾いてしまうから人のことは言えない。



彼の肩をツンツンと人差し指でつついてみる。

すると彼は、少し振り返り片耳だけヘッドホンを外した。



「ん？」

「ね！きいて！昨日思いついたピアノのフレーズなんだけど......」

「お、弾いて」



彼はヘッドホンを完全に外して首にかけ、完全にこちらを向いた。

曲の編集に集中している時に話しかけられるのを極度に嫌う音楽バカの彼だが、その話しかけられた話題が曲作り関連のこととなると嫌な顔一つせずにしっかり聴いてくれるから、音楽バカでめんどくさいけど嫌いじゃない。



私はキーボードに手を滑らせた。

今度は弾くフレーズを決めて弾いたから、意識的に手を動かしている感覚だ。


私はほんの４小節ほどのフレーズを弾き終えた。



「ほら、結構よくない？」



彼の反応を窺う。

これは否定されたら、ちょっと、いや、結構凹むかもしれない。