甘すぎてずるいキミの溺愛。
いまからわたしは空園先生が待つ数学準備室まで行かなくてはいけない。
くよくよしていても仕方ないと思い、意を決して教室を出た。
教室を出ると廊下の壁にもたれかかってこちらを見ている人がひとり。
「うわ、すげー暗い顔してんね」
「戸松くん……」
「まさか副担任として赴任してくるとはね」
「戸松くんは……知ってたの?」
「知らなかったよ。俺はね」
「………」
最後の一言が余計。
わざとなんだろうか……。
「尊は知ってたかどうか、俺は知らないよ」
そう言うと、そのまま歩き出して帰るのかと思えば。
足を止めて、こちらに振り返った。
そして。
「美郷は……周りが思ってるほど、いいやつではないよ」
意味深なことを言い残して帰った。
取り残されたわたしは、そのまま数学準備室に足を向けた。