俺を好きにならないで
ドアには鍵はかかっておらず、部屋に入るとスグそこに深見くんは立っていた。



「深見くん……」



そっと彼に声をかけるが、彼は私に背を向けたまま何も反応してくれなかった。


ならばと彼の腕を引っ張りこちらに顔を向ける。


深見くんは酷く泣きそうな顔をしていた。


こんな表情初めて見た。



「ふか……」



もう1度彼の名を呼ぼうとしたが私は最後まで言葉を続けられなかった。


優しいシトラスの香りが私の鼻腔をくすぐる。


暖かい感触に包まれて、彼に抱きしめられているということに気づくまで時間がかかった。
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