ワンコ系Drの熱烈アプローチ
Dr.Ayukawa Side
俺が下村ちゃんと初めて出会ったのは、今の医院に初出勤をした朝、電車の中でだった。
混み合う車両を避け、先頭車両の比較的空いている場所に乗り、面接後二度目になる東條歯科医院へと向かっていた。
通勤ラッシュの時間帯の中、乗った車両は座席は埋まっているものの、吊り革に掴まって乗車する人の姿は疎らだった。
現に自分は長椅子の座席に座れていて、立つ人の少ない車内から窓の外の流れる景色をぼんやりと眺めていた。
車内アナウンスが流れ、下車駅が次に迫ったときだった。
何か緊急の事態が起こったのか、電車が滅多にない急ブレーキをかけて車体を揺らした。
乗客が驚いた声を口々に上げる。
そんな中、それとは別の、ハッと息を呑んだような張り詰めた空気が辺りを包み込んだ。