ワンコ系Drの熱烈アプローチ
ざわざわと騒然とする車内。
誰かの「うわっ」という声に目を向けると、車内の床にピンク色のかたまりが転がっていた。
視界に捕えた瞬間、目を疑った。
それは、上顎のフルデンチャー。
誰かの総義歯が転がったその周辺は、蜘蛛の子を散らしたように人が広がる。
深く座っていた体を起こして見ると、俺の掛ける側の端の席に掛ける高齢女性が、口を押さえてオロオロとしていた。
不適合の義歯だったんだろう。
今の衝撃で、口の中から飛び出してしまったのだと瞬時に判断できた。
咄嗟に座席を立ち上がっていた。
だけど、俺が駆け寄るよりも先に、誰かの手がその義歯を掴んでいた。