ワンコ系Drの熱烈アプローチ
ビニール袋からおにぎりやサラダを取り出しながら、優ちゃんの声にうんうんと頷く。
優ちゃんにそんなことを言われた浅木さんはあからさまに動揺しながら、となりの更衣室へと入っていった。
ここの副院長である院長の息子、東條律己(とうじょうりつき)先生。
スタッフに厳しく、にこりとも笑わないその姿から、前にいた衛生士さんは“冷血無表情ドクター”なんて裏で命名して呼んでいた。
まあ結局、そんな呼び名を付けていた衛生士さんは律己先生の怒りを買って、耐え切れず辞めてしまったのだけど……。
確かに私自身、ここに入ったときは律己先生がちょっと怖いと思っていた。
仕事中、注意をするときも感情は一切見せず、端的にズバッと言葉を発するのみ。
あからさまに怒っていますという感情を見せられたら、逆にそこまで怖くはないかもしれない。
だけど、いつでも淡々としているから、そのブレない態度に精神的にやられ、耐えれなくなる人が多い。