無慈悲な部長に甘く求愛されてます

 考えていると、改札の向こうの階段を、ひときわスタイルのいい男性が下りてくるのが見えた。

 瞬間的に胸が華やいで、駆け寄りたい衝動に駆られる。

 ご主人様の帰りを待っている犬ってこんな気持ちなのかも、と思いながら一歩踏み出したとき、前から来たサラリーマンとぶつかった。

「きゃっ」

 体当たりされたような衝撃によろけてしまう。

 相手の中年男性に迷惑そうに睨みつけられ「すみません」と謝ると、彼はふんと鼻を鳴らして去っていった。

「大丈夫か?」

 駆け寄ってきた部長が固まっている私の腕を取って支えてくれる。

 心配そうに顔を覗き込まれ、私はあわてて顔を伏せた。

 恥ずかしいところを見られてしまった。

「大丈夫です。すみません、私、ぼうっとしてて」

「いや、今のは完全に向こうが悪い。わざとぶつかってきてただろ」

「え、わざと?」

 冴島さんは去っていった男性のほうを見てつまらなさそうに言った。

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