無慈悲な部長に甘く求愛されてます
「ああいう当たり屋がたまにいるんだよ。痴漢みたいなもので、好みの女性を選んで、わざと真正面からぶつかっていく」
私に向き直ると、冴島さんはめずらしく眉を下げていた。寂しそうな、悲しげな顔をして、ぽんと私の頭をなでる。
「君は……もっと、気をつけたほうがいい」
胸の奥で、なにかがきゅうっと音を立てた。
冴島さんに見つめられたときにだけ湧き起る、名付けるのがむずかしい感情に、全身が冒されていく。
それは喜びとも、悲しみともちがう。
嬉しいのに泣きたくなるような、呼吸が勝手に止まってしまうような……。きっと一番近いのは、『恋しい』という気持ち。
「行こうか」
歩き出す冴島さんに従って、私も歩を進めた。
ふたりとも荷物で手が塞がっているのに、私は前を行く彼に触れたくてたまらなかった。
いつかみたいに、手をつないでほしい。
部長のぬくもりを感じながら歩きたい。
付き合ってもいない相手にそんなことを思うなんて、私はあきれるくらい欲張りだ。