無慈悲な部長に甘く求愛されてます
酔っ払って絡み付いてくる彼女を振り払うでもなく、優しく笑っていた冴島さんがよみがえる。
明菜ちゃんをうらやましいと思いながらも、あんなふうに大胆に抱きつくなんて私にはできないと思った。
冴島さんは私の上司だ。
いくらプライベートでも、行き過ぎたことをして嫌われたら、仕事がしにくくなる。
それに、と思いながら、私は横を歩く冴島さんを見る。
視線が合って、あわてて逸らした。
こうやって目が合うだけでどきどきしてしまうのに、抱きつくなんてとうてい無理だ。
自分の心臓がもたない。
冴島さんは私の質問には答えず、しばらく黙っていた。ただ、視線だけを感じる。
三階建てのアパートが見えてきたところで、彼はぽつりと言った。
「嫉妬、した?」
「え……?」
顔を上げると、静かな目に見下ろされていた。
「俺は、したよ」
低い声が夜に紛れるように消える。
「冴島、さん?」
アパートの前で、私たちは立ち止まった。