無慈悲な部長に甘く求愛されてます
無理だ。
『相手の男性』とは毎日顔を合わせているうえに、同じ空間で過ごしているのだから、どうあっても忘れられるはずがない。
資料を机に放りだして頭を抱えた。
どうしよう。
これからどんどん重要な案件を扱っていくのに、こんな状態じゃ仕事にならない。
「小松さん、どうかしたの?」
顔を上げると江田部長と目が合った。優しいお父さんという風貌の部長が、メガネの奥の目をきょとんとまたたく。
「頭でも痛いの?」
「いえ」
そういえば、いつだか冴島部長に言われた言葉を思い出す。
《なにかやりづらいことがあれば、いつでも上長に相談するように》
心配そうに私を見ている江田部長を見つめ返した。
実は、冴島部長のキスが忘れられなくて、仕事に集中できないんです。
――なんて、言えるわけない。
「大丈夫です。なんでもありません」
そう言って、私はふたたび立ち上がった。
こうなったら冴島部長をとことん視界に入れないようにするしかない。
チームセクレタリーという立場上むずかしいことだけど、できるかぎり、彼とは接触しないようにしよう。