無慈悲な部長に甘く求愛されてます
決心して、私は冴島部長のもとに向かった。
目が合わないようにわざとフロアを大まわりして後ろから声をかける。
「冴島部長」
彼が振り向く前に、私は手元の資料に目を落とし、視線が合わないようにした。
「午後のチームミーティングのことで質問があるんですが、今、よろしいですか」
「ああ」
ふと資料から目を移した瞬間、冴島さんの指が見えて、どきりとした。
体温が急上昇するのがわかる。
顔を見なくても、低い声や、もっといえばその存在を感じるだけで、私の心はすぐに乱れる。
あわてて資料に目を戻し、ここから視線を外したら死んでしまう、という勢いで印字されたデータを凝視した。
用件を済ませてデスクに戻ると、どっと体が重くなった。
たった二、三質問しただけでこんなに疲れるなんて、先が思いやられる。
だけどそのおかげでさほどの失敗もせずに目的を達することはできた。
よし、この調子でいこう。
書類に入れられた赤ペンに意識を集中させ、私はパソコンのキーを叩いた。